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概要
『三四郎』(さんしろう)は、夏目漱石の長編小説である。1908年(明治41年)、『朝日新聞』に9月1日から12月29日にかけて連載され。翌年5月に春陽堂から刊行された。『それから』『門』へと続く前期三部作の一つ。全13章。
九州の田舎(福岡県の旧豊前側)から大学入学のため出てきた小川三四郎が、都会の様々な人との交流から得るさまざまな経験、恋愛模様が描かれている。三四郎や周囲の人々を通じて、当時の日本が批評される側面もある。「stray sheep」という言葉を随所で口にして出てきて三四郎自身や人との関係を表わしたりする。
三人称小説であるが、視点は三四郎に寄り添い、時に三四郎の内面に立ち入り説明して、さらに状況に意味付けしたり言及する「語り」をしばしば挟んで、読者を強く誘導する。
あらすじ
東京帝国大学に合格し、郷里の九州から上京した23歳の小川 三四郎は、旅慣れていない。たまたま列車に乗り合わせ、名古屋で宿泊するが、間違って相部屋にされた女性にも曖昧な態度を取りつつ警戒し、別れ際に「貴方はよっぽど度胸のない方ですね」となじられる。まだ人や女性に戸惑う。三四郎は大都会・帝都東京で人の多さに辟易する。同郷で理科大学(現在の東京大学理学部)教師の野々宮 宗八を訪ね、帰りに大学構内の池のほとりで団扇を手にした若く美しい女性里見 美穪子を偶然目にする。野々宮と再び会った三四郎はともに本郷を散歩する。7つ年上で30歳の野々宮は散歩の途中に用品店で女物のリボンを購入する。
9月に講義が始まる。三四郎は隣の席の佐々木 与次郎と友人になり、洋食屋「淀見軒」に誘われライスカレーを食べる。三四郎は与次郎から「つまらない講義に耳を傾けるより、世間の風というものを入れ給え」と忠告される。与次郎から野々宮 宗八が探していたと聞かされた三四郎は野々宮に会いに行き、同郷の誼で三四郎の実家から贈られた品「赤い魚・ひめいちの粕漬」への礼を言われて自宅に誘われ、三四郎は野々宮の妹よし子と引き合わされる。三四郎は「第一の世界:故郷」、「第二の世界:大学と周辺」、「第三の世界:華やかな帝都での出会い」ができたと将来を考えるが、「国から母を呼び寄せて、美しい細君を迎えて、(自分は)身を学問にゆだねる」という三四郎自身も平凡と感じる田舎者らしい結果になる。
一方、与次郎が「先生」と慕う英語教師広田 萇の引っ越しが決まり、手伝うことになった三四郎は、広田の新居で偶然にも美穪子と再会し名刺を渡される。三四郎は花は必ず剪って、瓶裏にながむべきものであると実感する。三四郎と美穪子は新居の掃除を2人で行うことになる。2階に上がった美穪子は空を見上げて雲の形に見とれていた。三四郎はそんな美穪子に惹きこまれていく。荷物を運び入れた与次郎も合流し、荷解きするうちに講義を終えたらしい広田も帰宅する。与次郎は広田を「偉大なる暗闇」と評し、折角多くの書籍を読んでいるのにちっとも光らないとボヤく。一方、野々宮も海外での高い評価に対し、国内では安い給料で雇われて穴蔵に閉じ込められていると評する。そんな与次郎の人物評に広田は君はせいぜい丸行灯で二尺程度を照らしているだけだと叱責する。美穪子が差し入れとして持ち込んだ大きなバスケットに一杯のサンドイッチを振る舞ううち野々宮もやって来る。広田家は賑やかだった。与次郎は広田家の2階に居候するつもりでいた。話題が変わり、与次郎の翻訳に広田が難をつける。野々宮が原文を問うと、すかさず美穪子が英文を口にする。美しさだけでなく教養も光る美穪子に、三四郎はますます関心を抱く。一方、野々宮はよし子を里見家に居候させようとしていた。
美穪子には兄が2人いたが、上の兄は亡くなっていた。その兄と親友だったのが広田で、下の兄の恭介と同窓だったのが野々宮だった。そして美穪子は野々宮家にたびたび出入りしていた。三四郎は団子坂の菊人形見物に誘われる。
菊人形見物に繰り出した美穪子、よし子、広田、野々宮に同行した三四郎の一行は、雑踏で物乞いや迷子とすれ違う。だが、広田も野々宮も「場所が悪い」と関わり合いを避ける。すると美穪子は「気分が悪い」と言いだして三四郎を連れ出し、一行から離れる。「気分が悪い」というのは美穪子の口実に過ぎず、本当は「気分を害した」のだった。重苦しい曇り空を「大理石」と評する美穪子。美禰子は「私そんなに生意気に見えますか」と三四郎に投げかける。美禰子は自分の言動が他者に生意気に見えると自覚しているが自身は生意気に見えることを不本意だと心底を打ち明けた。しかしまた三四郎は黙り込み、美禰子は「じゃ、もう帰りましょう」と三四郎にとって自分は興味がないと諦めた。2人がはぐれたことで野々宮たちが慌てていると三四郎は心配するが、大きな迷子だからと美穪子は取りあわず、責任を持ちたがらない人たちだからと流してしまう。そして、三四郎に迷子の英訳として「stray sheep」だと教える。泥濘を避けるために置かれた石を三四郎はひらりと飛び越えるが、美穪子は不安定な石に足を取られ、三四郎に抱きかかる形で倒れてしまう。美穪子は三四郎の腕の中で「stray sheep」と囁くのだった。講義に身が入らない三四郎はノートにstray sheepと書き殴るようになる。
一方、広田が新居を借りるにあたり野々宮から借りた20円を、預かった与次郎が馬券でスッてしまったと相談され、三四郎は仕送りから20円を立て替えてやる。与次郎は三四郎が立て替えた20円の工面をつけようとし、美穪子からアテを得たものの三四郎が来ないと渡さないと言われてしまう。三四郎は里見家に赴き、美穪子は預金通帳と印鑑を三四郎に渡し、好きなだけ使いなさいと告げる。また画家の原口の開く絵画展のチケットがあると美穪子は三四郎を誘う。しかし野々宮と鉢合わせた美穪子は、三四郎になにかを囁く挙動に出たのち、それが野々宮への当て付けの意味があったことを仄めかす。三四郎は美穪子に恋をしている自覚を持つが、美穪子の真意を理解できない。三四郎は冬物を買いに出た日に、香水を買いに来た美穪子とよし子に偶然出会い、品定めを任され、ヘリオトロープを選ぶ。
郷里から臨時の仕送りを受け、原口のアトリエを訪ねた三四郎は、モデルをしている美穪子と対面し、金を返すと言い出す。美穪子は疲れた表情を見せるようになり、原口に帰される。そこで三四郎は、金は口実に過ぎず貴方に会いに来たのだと美穪子に告げる。美穪子は話題を変え、描かれた服装で原口が作品に取りかかった時期が分からないかしらと三四郎に囁く。三四郎はそれが偶然美穪子を見初めた時期だったことに気づくが、そこへ三四郎の知らない若い紳士が現れ、美穪子を車に乗せて去る。
三四郎は広田を訪ね、広田は結婚というものに否定的で、恋愛についても達観した人物だということを知る。演芸会に行き風邪をこじらせて伏せった三四郎は、美穪子の縁談が纏まったと与次郎から知らされる。相手は野々宮ではなかった。回復後三四郎は真相を確かめるべく美穪子宅へ行く。三四郎が美穪子に金を返すと、美穪子は三四郎が選んだヘリオトロープの香水を含んだハンカチを差し出す。「結婚なさるそうですね」と三四郎が問うと、美穪子は「ご存じなの」と、ため息をかすかにもらした。
三四郎が帰省する間に、美穪子は兄の友人と結婚していた。完成した原口の絵は所属美術団体の展覧会で公開され評判となっていた。そこには池のほとりで扇子を手にした美穪子が描かれていた。美禰子夫婦は2日目に来ていい絵ができたと美禰子と原口が礼を述べ合い、さらに夫が一番礼を述べた。第1土曜日には三四郎と広田、野々宮4人で来館する。美禰子の絵の前で、野々宮は偶然服の隠しポケットから出てきた終わった美禰子の結婚披露招待状を引きちぎり床に捨てた。原口は与次郎に売りたいと言うが、与次郎は「僕より」と絵の前の椅子に座っている三四郎をみやる。与次郎「どうだ森の女は」三四郎「森の女という題が悪い」「じゃ、なんとすればよいんだ」三四郎はなんとも答えなかった。ただ口の中で「stray sheep、stray sheep」と繰り返す。