細雪

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作品データ

ジャンル
  • 文芸
  • 出版社
  • 千歳出版
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    概要

    『細雪』(ささめゆき)は、谷崎潤一郎の長編小説。1936年(昭和11年)秋から1941年(昭和16年)春までの大阪の旧家を舞台に、4姉妹の日常生活の明暗を綴った作品。阪神間モダニズム時代の阪神間の生活文化を描いた作品としても知られ、全編の会話が船場言葉で書かれている。上流の大阪人の生活を描き絢爛でありながら、それゆえに第二次世界大戦前の崩壊寸前の滅びの美を内包し、挽歌的な切なさをも醸し出している。作品の主な舞台は職住分離が進んだため住居のある阪神間(職場は船場)であるが、大阪(船場)文化の崩壊過程を描いている。

    谷崎潤一郎の代表作であり、三島由紀夫をはじめ、多くの小説家・文芸評論家から高く評価され、しばしば近代文学の代表作に挙げられる作品である。『細雪』は昭和天皇にも献本され、天皇自身は通常文芸作品を読まないが、この作品は全部読了したと谷崎は聞いたという。

    背景・出版経過

    谷崎は第二次世界大戦中の1941年(昭和16年)に谷崎潤一郎訳源氏物語(旧訳)を完成させ、1942年(昭和17年)9月下旬には山梨県南都留郡勝山村(現在の富士河口湖町勝山)の河口湖湖畔にある富士ビューホテルに滞在しており、その滞在中の様子をモチーフとした場面が『細雪』下巻に描かれている。

    1943年(昭和18年)、月刊誌『中央公論』1月号と3月号に『細雪』の第1回と第2回が掲載された。夫人の松子、義姉、義妹たち4姉妹の生活を題材にした大作だが、軍部から「内容が戦時にそぐわない」「優美な世界が『時局をわきまえない』」として6月号の掲載を止められた。

    谷崎はそれでも執筆を続け、1944年(昭和19年)7月には私家版の上巻を作り、友人知人に配ったりしていたが、それも軍により印刷・配布を禁止された。中巻(544枚)も完成したが出版できなかった。疎開を経て、終戦後は京都の鴨川べりに住まいを移し、1948年(昭和23年)に作品を完成させた。

    戦後に発表が再開されたものの、今度はGHQによる検閲を受け、戦争肯定や連合国批判に見える箇所などの改変を余儀なくされた。それらの過程を経た『細雪』全巻の発表経緯を以下にまとめる。

    1943年(昭和18年)

    上 - 『中央公論』1月号、3月号

    1944年(昭和19年)

    私家版『細雪 上巻』(非売品)を7月に刊行。

    1946年(昭和21年)

    『細雪 上巻』を6月に中央公論社より刊行。

    1947年(昭和22年)

    『細雪 中巻』を2月に中央公論社より刊行。

    下 - 『婦人公論』3月号-12月号

    1948年(昭和23年)

    下 - 『婦人公論』1月号-10月号

    『細雪 下巻』を12月に中央公論社より刊行。

    1949年(昭和24年)

    『細雪 全巻』を12月に中央公論社より刊行。

    『細雪』はベストセラーとなり、谷崎は毎日出版文化賞(1947年)や朝日文化賞(1949年)を受賞した。

    1950年代に、英語(The Makioka Sisters(英語))に翻訳、アメリカで出版されたことを皮切りに、世界各国でも出版されており、スロベニア語・ドイツ語・イタリア語・中国語・スペイン語・ポルトガル語・フィンランド語・ギリシャ語・フランス語・セルビア語・ロシア語・韓国語・オランダ語・チェコ語・トルコ語に翻訳されている。

    なお、作中には年号の表記が出てこないが、作中で四季の移り変わりと、阪神間を襲った大きな気象災害(阪神大水害)が克明に描かれているため、この作品は日中戦争勃発の前年1936年(昭和11年)秋から日米開戦の1941年(昭和16年)春までのことを書いているとされている。

    『細雪』の舞台となった場所

    兵庫県武庫郡住吉村(現・神戸市東灘区)の谷崎の旧邸は、保存運動がNPO法人「谷崎文学友の会」と地元住民によって進められ、六甲ライナー建設による移築保存を1990年(平成2年)に成しとげ、「倚松庵」と名づけられている。

    岐阜県不破郡垂井町表佐地区(業平川)が5月下旬から6月中旬にかけての「蛍狩り」の舞台である。同町で谷崎が執筆する為に使用した「爛柯亭」は現在同県郡上市へ移築されている。