光に向かいし花のごとく 4巻
発売日: 2020-10-14
新宿中村屋を創業した夫婦、相馬愛蔵とその妻・相馬黒光。宮城県仙台市の藩士の儒者・星雄記を祖父に持ち廃藩置県の4年後に生まれた星 良…のちに結婚して相馬良となり、愛蔵の故郷、安曇野郡東穂高から上京し、夫婦で本郷でパン屋を開業する傍ら、夫婦ともに文筆活動もしながら、明治、大正、昭和と続く時代の中で、様々な芸術家…画家、彫刻家、文筆家、舞台俳優などと交流し、彼らを様々な形で支援し、後に「中村屋サロン」と呼ばれた日本近代文化の一役を担うこととなる。
「愛の章」は中村屋サロンの始まりともなった東穂高出身の彫刻家・荻原碌山と相馬夫婦との交流を描く。
続く「生の章」は仙台に生まれた星 良が文化意識に目覚め、東京女学校に入学し卒業するまでに出会った数々の人々との交流、そこには明治期の文学の屋台骨になった人々の影が渦巻く。
最後の「黒光の章」は良が文筆業として使った筆名・相馬黒光として、中村屋サロンに関わった人々と、時代の流れに流されながらも、時に立ち向かい時に打ちのめされて、それでも夫婦の絆を紡ぎながら堂々と生きていく様を描いていく。
今回はその第一章、「愛の章」の「第二話」になる。
愛蔵の不倫を知った良の苦悩とそれを知らせた守衛の苦悩が始まる。互いの立場に同情しながら、お互いの絆を意識していく二人だが、良は離婚に踏み切るわけではなく、何事もないように仕事の商売を夫と共に努めていく。そんな二人に振り回されるながらも、守衛は自身の創作に打ち込むが、作品には己の感情や苦悩が投影されていくことになり、良への思いが募るほどに作品は重く、彼自身の精神も体調も混迷の一途をたどることになる。遂に自分の長年の感情を良にぶつけてしまった守衛だったが、良はあくまで愛蔵の妻を演じようとしている。そんな良を広い愛情で見守る愛蔵に対し、守衛は愛蔵自身を嫌うこともできず葛藤の中で生き続ける。そんな中、二人の次男の襄二が小児結核に罹り、守衛は己の愛情の行く先を襄二の看病に向けることになる。そして良への叶わぬ恋の感情は、新しい作品「女」に向けることになる。「女が完成した夜、襄二の死にショックを受けた守衛はその翌月、友人柳敬介のアトリエを中村屋の敷地に完成させて、自身は大量の血を吐いて中村屋で看病を受けるが、良、愛蔵、兄の本十と友人戸張孤雁の見守る中、静かに息を引き取る。中村屋の庭の八重桜が満開の花びらに埋もれように…。 続きを読む